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東京地方裁判所 昭和33年(行)156号 判決 1959年10月28日

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「原告の任意継続被保険者資格取得申請に関する再審査請求につき、被告が昭和三十二年九月三十日付にてなした原告の右申立は立たないものとする旨の裁決はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、その請求の原因として左の通り陳述した。

一、原告は昭和二十七年七月二十八日より同年十月十六日迄訴外京浜自動車製作所に、同三十年七月一日より同年九月五日まで訴外田中製鍛工業株式会社に夫々使用され、右各使用されていた期間中健康保険の被保険者であつた。

原告は右田中製鍛工業株式会社退職後の昭和三十年九月九日東京都知事に対し任意継続被保険者資格取得の申請書を提出したが、同知事はこれに対し、同年十一月十日原告が被保険者であつた期間が二ケ月未満であることを理由に原告の右申請を承認しない旨決定した。そこで原告は東京都社会保険審査官に審査の請求をしたが、原告の申立は入れられず、更に、原告は被告に対し再審査の請求をしたところ、請求の趣旨に記載した通りの裁決がなされた。

二、しかしながら、原告の右任意継続被保険者資格取得の申請は適法なものであり、これを認容しなかつた東京都知事の決定及びこの決定を認容した被告の右裁決は左記のような違法な点があるから取消されるべきものである。

(1)  原告が京浜自動車を退職したのは、当時原告は病気であり、その身体の養護のためには使用主の予期した労働に堪えることができなかつたので、使用主の事情も考慮した上自ら退職したものである。このように、病気のために止むなく退職した原告としては、退職と同時に被保険者たるの資格を喪失し、健康保険による給付を受けることができなくなることは非常な苦痛であつたから、右京浜自動車を通じ品川社会保険出張所に退職後においても何らかの方法で健康保険給付を受けられないものかと再三問合せた。しかるに品川社会保険出張所当局においては、原告に対し一気の毒ですが外に方法はない。」

というのみで何ら具体的な回答或は指示をなさなかつた。

思うに、健康保険法第二十条によると、被保険者がその資格を喪失した場合に、その喪失の日から十日間内に任意継続被保険者資格取得の申請を為し得るのであるが、右のような規定は普通一般の人はこれを知らず、健康保険関係の仕事をする専門家のみの知つているところである。原告も前記京浜自動車退職の当時においては右規定の存在を知らなかつたが、被保険者が使用されていた事業所を退職すると直ちに被保険者たるの資格を喪失し、保険給付が受けられないとするならば、原告のように病気を理由に退職するものは退職後その病気療養に直ちに困窮するようになり、このようなことは健康保険制度の本旨に反するものであるから、何らかの方法があるものと思つて前記問合せをなしたものである。従つて、このような問合せを受けた品川社会保険出張所当局としては、直ちに任意継続被保険者資格が取得できるからその申請書を提出するように原告に対し指示する義務があるものというべきである。ところが右出張所当局がこの義務に反し、原告に対し何らの指示も与えなかつたため、原告は前記法条所定の十日の期間内に申請書を提出することができなかつた。

右のような事情は、原告が右申請を右の所定期間内になし得なかつたことにつき正当な事由がある場合にあたるものであるから、原告の任意継続被保険者資格取得申請は受理されるべきものであり、これを受理しなかつたのは違法である。

(2)  原告が田中製鍛工業株式会社に使用せられた期間は前記の通り昭和三十年七月一日より同年九月五日までの二ケ月以上である。八月五日頃に解雇の予告を受け九月五日は田中工業の原告に対する解雇予告期間満了の日であるけれども、原告は右解雇予告を受けた日以後においても出勤したことがあるものである。

同法第二十条第一項の二ケ月以上という期間の計算は、使用されているものが、実際に労務に服した期間のみをいうのでなく、解雇予告を受け、その予告期間の終期までを使用されていた期間として計算すべきものである。

何となれば、解雇予告は解雇の効果の発生する日の予告であり、予告された日まではその事業所の労務に服すると否とにかかわりなく雇傭関係は存続するものと見るべきであり、独り健康保険の場合にのみ、解雇予告期間を使用されていた期間と見てはならないという理由はない。

そうして、右のように解することが、健康保険制度の趣旨に合致する。まして、前記の通り、原告は解雇予告を受けてからも右訴外会社に出勤したのであるから、原告が退職し、同法十八条により被保険者資格を喪失した日は九月五日であり、この日まで二ケ月以上被保険者であつた原告は、同法第二十条一項の規定による申請をなし得る資格を有するものというべきである。従つて、原告にその資格なしとした被告の裁決は違法である。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁として、「原告が昭和二十七年七月二十八日京浜自動車製作所に入社し、同年十月十六日退職したこと、昭和三十年七月一日から田中製鍛工業株式会社に使用されていたこと、及び原告の都知事に対する任意継続被保険者資格取得申請書の提出から被告の裁決に至るまでの手続の経緯が原告主張の通りであることは認めるが、その余の事実は争う。」と述べ、更に被告の主張として「原告の被保険者期間は(一)京浜自動車製作所における昭和二十七年七月二十八日から同年十月十六日まで、(二)田中製鍛工業株式会社における昭和三十年七月一日から同年八月四日まで、(三)伊藤鍍金工業所における臨時工としての同年八月八日から同月三十一日までであるが、(一)については退職後十日以内に任意継続被保険者資格取得の申請をなしておらず(その期間徒過について正当事由はない。)(二)は昭和二三年法律第一二六号旧健康保険法第二十条所定の二ケ月の期間に足らず、右(一)同様資格取得の申請もしていない。(三)は同法第十三条の二にいわゆる適用除外者に該当し、被保険者資格の得喪を生じえないし、またかりに右の適用除外者でないとしても、同法第二十条所定の二ケ月の期間に足らない。さらに(一)、(二)及び(三)の各期間は合算すべきものでない。従つて、原告の資格取得を認めなかつた本件処分は何ら違法な点は存しない」と陳述した。

(立証省略)

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